ヨーロッパ鉄道旅行 9 スイス ベルニナ線と氷河急行

スイス ベルニナ線と氷河急行

スイス鉄道旅行

ベルニナ線と氷河急行

スイス ベルニナ線と氷河急行

ベルニナ線は
  「ベルニナ線」正式にはレイティッシュ鉄道ベルニナ線はスイス東南部の保養地サン・モリッツ(St.Moritz)からイタリアのティラノ(Tirano)へ向かう全長61kmの国際路線です。この線は急峻な山岳路線ですが勾配にラック・レールを使わずループ線やヘヤピン線を多用した全線粘着式の運転で、最高所ベルニナ峠越えもトンネルを掘らず分水嶺を越えるため、車窓風景の大変美しい路線です。

 ベルニナ線は軌間1000mmのナロー・ゲージで電気方式は直流1000V、最急勾配70パーミル、最小半径45mの路線です。氷河急行と並んでベルニナ急行が有名で、箱根登山鉄道と姉妹関係を結んでいることから日本でも知られていて、箱根登山の「ベルニナ号」はここから付けられています。地理的な面から時間に制約のあるツアー旅行では組み込まれることが少ないようですが、個人でじっくり回るには適したところと思います。
 なお、この地域はドイツ語およびイタリア語圏となり、観光案内所や大きなホテル以外では英語はあまり通じないようです。

車窓のきれいな(はずの)ポストバス
  今回はルガノ(ヨーロッパ 8)からポストバス(スイス連邦政府 郵政省管轄の路線バス)を使いティラノ (Tirano=463m)へ出て、ベルニナ急行に乗り継ぎ、峠の分水嶺に近いアルプ・グリュムオスピッツ・ベルニナのホテルに泊まる予定です。このバスはルガノを出てしばらくするとコモ湖畔を走る観光路線でもあり、車窓からの景色が期待されたのですが、この日は朝からあいにくの雨。コモ湖畔に出る手前の国境の検問所でも係員は出て来ずフリーパス。湖畔を走っている間は湖面がようやく見える程度の視界で、期待していた車窓はおじゃんとなりました。湖畔を離れティラノに向かうやや広い谷を走る頃になると雨も上がり一時は日差しも見えました。がしかし、ティラノまであと10分位というところから再び雨が降り始めティラノに着いても止む気配はありません。

待望のベルニナ線に乗車
  ティラノ到着後すぐに各駅停車が1本あり、この列車で日本でも有名なオープンループポスキアーボ(Poschiavo)あたりまで行き写真撮影を考えていましたが、雨も止む気配はなく、またお腹も空いたので次のベルニナ急行まで1時間待つことにしました。ベルニナ線のティラノ駅は大変質素で、ホーム1本と数本の留置線があるだけ。駅本屋には出札口のほかに国境検問所があり係官もいるようですが、今ではパスポートのチェックなどもなくホームへので入りも自由になっています。次の急行まで時間があるので、駅前のcafeに駆け込みビールとパスタ(スパゲッティ・ボンゴレ)を食べました。フランスフランが通用したので、国境の町だなと納得しました。

 発車の15分ほど前にホームにはいると既にベルニナ急行の車両が到着していました。ベルニナ急行は新製の大出力電車クモロハ(ABe4/4 III)が重連で客車を牽引していますが、RがきついためほかのRhBの車両よりも短いのが特徴です。また、牽引の電車には地名に由来する愛称が付けられていて、54号には箱根登山鉄道から名前をもらいHAKONEと命名されていますが、確認できませんでした。サン・モリッツやティラノ駅には箱根登山から送られたカタカナの駅名表があります。

 列車はティラノを出るとしばらく路面を走り、駅から 2.5kmのところで国境を越えスイス領に入ります。(標識があったようですが、判りませんでした)列車が勾配を登りはじめカンパスチオ(Campascio)駅を過ぎたところに名物のオープン・ループがあります。ループと言うとトンネルの中で回転し高度を稼ぐ「ループ・トンネル」は知られていますが。ここはトンネル無しのループ線で、築堤と7連の小さいアーチ橋からなり、まるで模型のレイアウトのようです。地図を見ながら乗っていたのですが、霧の中からいきなりループが現れてしまいループを半分登ったところで気がついたので写真もまともに撮れませんでした。サン・モリッツ方面からだと進行方向右下に展開するので分かりやすいかも知れません。ループを過ぎポスキアーボ湖に出ると湖岸に沿ってしばらくレベルを保ちます。ガイドブックによるとこの辺からこれから登って行くベルニナ・アルプスの山々が見えるはずですが、雨のため何も見えません。

スイス ベルニナ線と氷河急行
ベルニナ線概念図

勾配はきつく
  湖を過ぎ再び登りにかかるとまもなくポスキアーボ(Poschiavo)駅に到着。ここまでも随分山を登った感じですが、まだまだ足慣らしで、ここから峠のオスピツィオ・ベルニナ (Ospizio Bernina)駅までは直線距離で6kmにもかかわらず、1000m以上の高低差をヘアピン線などを駆使し16kmもかけて登ります。ラック式にすればもっと短距離になりますが、ラック式だと長編成の運転が出来ず、道路のベルニナ峠が雪で閉鎖になることもあり、鉄道の輸送力を確保するために粘着運転を取り入れたとのことです。

   さて、この先ポスキアーボ駅~カヴァーリア(Cavaglia)駅間とカヴァーリア駅~アルプ・グリュム(Alp Grum)駅間に4段ヘアピン・カーブがあります。

最初のヘアピンは単純に4回折り返すだけで、山肌に張り付いたヘアピン・カーブからは今まで走ってきた線路やポスキアーボの街が見えるはずですが、雲のため何も見えません。ヘアピン途中のカデラ(Cadera)駅の駅名標には「標高1383m」とありティラノを出発し 900m以上も登っています。スイス ベルニナ線と氷河急行
カヴァーリャ駅を過ぎると2つ目のヘアピンにかかります。こちらのヘアピンは2折り目と3折り目が長く、ここからは眼下にカヴァーリャの街がよく見えました。車輪のきしみも大きくなり、最後のヘアピンを通過するとアルプ・グリュム駅に到着です。ヘアピンの山を巻いた線路やグリュム駅からは目前にパリュ氷河が見えるはずですが、何も見えません。

雨は止まず予定変更
  アルプ・グリュム駅を出て短いトンネルと雪崩よけを通ると勾配も緩やかになり、峠の小さな湖ビアンコ湖からレベルになり15時30分湖畔のオスピツィオ・ベルニナ駅へ到着です。ティラノからここまで所要時間1時間25分、線路距離が38kmと言うことなので評定速度はおおよそ時速25km/hと言うところでしょうか。街道(国道)のベルニナ峠は駅から離れていて付近には人家もなく、駅にレストラン兼営のホテルがあるくらいで寂しいところです。予定では湖のホテルに泊まるつもりでしたが、この天候では展望なども望めないので、先へ行くことにしました。

 オスピッツ・ベルニナ駅を出発すると分水嶺の黄色い看板が見え、ここから勾配は下りになりす。この列車の終着駅サン・モリッツ駅との標高差は 500m程しかなく、ティラノ側と比べると勾配も緩くループやヘヤピン・カーブなどの楽しみもありません。天気が良ければモルテラチェ氷河パリュの山々が見えるそうですが、影も形もありません。列車は順調に走り、ポントレジナ (Pontresina=1,774m)のオメガカーブも過ぎ16時22分定刻にサン・モリッツ (St.Moritz=1,775m)駅に到着しました。下車後窓口で翌日の氷河急行の指定券を買い、次の列車で本日の宿泊地サメダン(Samedan) 駅へ向かいました。

 本日の宿泊はサメダン駅前のホテル・テルミヌス(Terminus)で、一人でしたがツインのシャワー・トイレ付きの部屋に60SFr(朝食付)で泊めてもらえました。ホテルは1階がレストランで、ホテルのフロントがレストランのキャッシャーを兼ねています。(と言うか、レストランのキャッシャーがフロント兼ねていると言った方が正解でしょう)。夕食時間は地元のお客さんで混雑し、到着した宿泊客が待たされているのを横目に、本日のメニュー(前菜+主菜 18Sfr)をビールとともにいただきました。
 今回14日間の旅行中雨だったのはこの1日だけで、今だに心残りです。私としてはもう一度訪れたいと思っています。

乗車日乗 車 区 間列車種別
9月26日ティラノ(14:05発)~サン・モリッツ(16:22着)ベルニナ急行
サン・モリッツ(17:00発)~サメダン(17:08着)255

氷河急行は
  氷河急行はスイスの2大リゾート地ツェルマットサン・モリッツを3つの私鉄BVZ、FO、RhBを直通する観光列車です。氷河急行の名前は、旧フルカ峠で見られたローヌ氷河からきていますが、現在では新しくできたフルカトンネルを通ってしまうため氷河は見えず、ツェルマット近くでチョロっと見えるだけで名前負けしている感じです。ツェルマット~サン・モリッツ間は直通列車でも8時間かかり、狭軌線に1日中乗っていられるのは鉄道ファンとしては答えられませんが、時間の関係で一部カットし、サン・モリッツ~アンデルマット間に乗車しました。

氷河急行の指定券
氷河急行の指定券

  昨日の雨がウソのように青空が広がる中、氷河急行の始発駅サン・モリッツ駅へ向かいました。指定の席(22号車46番)に座りしばらくして出発となりましたが、乗客は大変少なく、1ボックスに1人程度で、通路をはさんだとなりのボックスは空いていました。サン・モリッツからライヒェナウ(Reichenau) 駅までと、方向転換してディゼンティス(Disentis)駅までがRhBで、この区間はベルニナ線と同じくラック区間がなく、途中数カ所にループ・トンネルがあります。

 サン・モリッツ駅を出た列車はドナウ側の支流イン川(オーストリアのインスブルックを経てドナウ川と合流し、黒海に注ぐ)に沿って下り、ベヴァー(Bever) 駅で左カーブしてアルブラ峠(北海と黒海の分水嶺)越えの登りにかかります。全長5865mのアルブラ・トンネルを過ぎるとすぐに3連続ループがあり、さらにヘアピン・カーブをミックスした変形ループと見所が続きます。天気がよく暖かいので、乗客は窓を全開にして写真を撮ったりしていますが、私が写真を撮ろうとすると前のボックスのドイツ人風のちょびヒゲのオヤジが頭を出してきてどうも邪魔です。

スイス ベルニナ線と氷河急行   フィリズール(Filisur)駅のトンネルを出たところに半径 100mの半円を描く有名なランドバッサー橋(高さ65m)があり、写真を撮ろうとトンネル内からカメラを構えていましたが、私の車両がトンネルを出る頃には機関車は橋を渡り終わり先の木陰に入ってしまい撮れませんでした。地形の関係で反対方向からの列車の方が撮り易いとアドバイスしているガイドブックがありました。2等車は全部窓が開きますが、1等車特に新型のパノラマ車は窓が開かないので、ツアーなどで行かれる場合は2等に変更してもらうことをお薦めします。

  橋のあとはしばらく目玉もなくヒュンターライン川に沿って快調に下って行きます。列車はライヒェナウ (Reichenau)駅で方向転換のため機関車を付け換え、15分程の停車の間に全ての客車のブレーキ・エアを入念に点検します。ここからディゼンティス(Disentis)駅までもRhBの路線ですが、勾配もそれほどきつくなくループなどもありません。

FOに入る
  ディゼンティス駅ではRhBの機関車と団体客の乗った前の客車が切り放され、代わってFO(フルカ・オーバーアルプ鉄道)の最新電機 HGe4/4 IIが私の客車の前に付きました。ここから先は勾配もきつく、所々にラック区間があるため、FOの電機にはラック用ピニオン・ギアが付いています。機関車交換の10数分の間に、乗客は列車から降り写真を撮ったり思い思いに過ごしていました。私も写真を撮った後機関車の台車をのぞきましたが、構造が複雑でピニオンのシステムはよく判りませんでした。

 ディゼンティス駅からは車内販売が乗り、コーヒー、コーラなどの飲物や氷河急行のみやげ物を売っています。みやげ物はTシャツやカレンダーなどどこの観光地でもお目にかかるものから、パノラマ1等車のNゲージの模型や列車のサボの複製、また氷河急行の傾斜グラスなどもありました。私はグラスとサボを頼みましたがサボは「品切れ」で手に入りませんでした。

車内販売リスト
 列車は途中数カ所でラックを使いながら勾配を登り、1時間ほどでルートの最高地点オーバーアルプ・パスヘーエ(Oberalppasohe) 駅に到着します。ここは標高2033mの小さな湖畔の無人駅で、ベルニナ線のオスピッツフィオ・ベルニナ駅に似た雰囲気があります。駅から5分くらいのところが峠で今まで登ってきた列車はここから下りになり、次のネッチェン(Natschen)駅からアンデルマット (Andermatt)駅までは崖のような急勾配をヘアピン・カーブを3回折り返しながら降りて行きます。

スイス ベルニナ線と氷河急行   サン・モリッツ~ツェルマット間は氷河急行はアンデルマットがほぼ中間で、もっと乗っていてもいいのですが、ブリグ~ツフェルマット間はすでに乗ったし、新フルカ・トンネルの暗闇を20分近く乗る気もしないので、アンデルマットで降り、チューリッヒ方面へ乗り換えました。アンデルマットからは旧フルカ峠へ行くバスが出ていて、ここに1泊し旧峠の氷河見物に行けば良かったとあとで反省をしました。

「悪魔の橋」って
  アンデルマットは昨日通ったゴットハルト・トンネルのちょうど真上にあり、ここからから本日の宿泊地チューリッヒまでは、トンネルの入り口の駅ゲッシェネン (Goschenen)駅まで降りゴットハルト峠を下る昨日と逆のルートをたどることになります。アンデルマットからゲッシェネンの間は川が急流になって落ちるゲッシェンネン渓谷で、鉄道の開通する以前はスイスとイタリアを結ぶ街道最大の難所と言われてたそうです。鉄道もラック・レールに助けを借りながら、15分かけゆっくりと下って行きます。

 ゲッシェネンではロカルノから来た普通列車に乗り、昨日走ったヴァッセンのヘアピン・カーブ、ループトンネルを下りアルト・ゴルダウで後続のチューリッヒ行き急行に乗り換えました。

乗車日乗 車 区 間列車種別
9月27日サメダン(8:57発)~サン・モリッツ(9:07着)515
サン・モリッツ(9:25発)~アンデルマット(13:57着)氷河急行
アンデルマット(14:27発)~ゲーシュネン(14:42着)普通
ゲーシュネン(15:13発)~アルトゴルダウ(16:08着)1680
アルトゴルダウ(16:15発)~チューリッヒ(16:57着)IC380

旅行期間 1995年

本HP上のデータは、1995年のものです。

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